最終更新日: 2024/12/07
作成日: 2024/10/21

質問をしよう

何が分からないかを理解するために必要なこと.

質問をする技術

「質問する」とは、頭の中にある「よくわからない」というモヤモヤをはっきりと言葉にすることです. 疑問を言葉にできれば,その先にたくさんのメリットが生まれます.

たとえば、学問を理解することを農作業にたとえてみましょう. 畑を耕す前には、「どの場所を耕すべきか」を把握しなくてはなりません. 学問に慣れた人であれば,だいたいどこに問題があるかが目で見てわかりますが,初心者にはそれが難しいものです. 実際にその場所へ行き,足で踏みしめて土地の状態を肌で感じないと,どこを耕すべきか判断できないのです. さらに「なぜそこを耕す必要があると感じたのか?」を明確にすることも重要になります.

たとえば地面に石が埋まっているのか,穴が開いているのか,盛り上がっているのか,あるいは雑草が生い茂っているのか. その原因によって,必要な対処法は変わります.たったひとつの石があるだけなのに,穴を埋めようとしてもうまくいかないように,原因がわかっていないと解決策も的外れになります. 逆に,正しく原因を捉えられれば,その原因を取り除くだけでどんどん土地を平らに整えることができます. 学問の理解をスムーズに進めたいなら,この「原因を正確に言葉にする力」は欠かせません。

この力は,学問に限らず何かを学ぶときや技術を身につけるときにも役立ちます. 疑問点がはっきりすればするほど,その解決策も見つけやすくなるからです。

私は,この「的確な質問をする力」はひとつの技術だと考えています. つまり,訓練によって身につけることが可能です.

質問する技術の訓練方法

訓練の方法は,要するに「たくさん質問をすること」です. 正確に言うならば,「質問をして,それに対する回答を得る」ということをたくさん繰り返すことです. 大切なことは,ただ漫然と質問をするのではなく,どのような質問をすれば,より疑問点が明確になるのかを意識しながら質問することです. そのような試行錯誤のなかで,質問する技術を習得できるはずです.

以上は,心構えというか,訓練するときの姿勢の話でしかないので,以下で,もう少し具体的に「質問をするためにどのような方法が効果的か」を考えていきたいと思います.

前提を決めて筋道を立ててみる

「どこかがおかしい」と感じているときに役立つ方法があります. どこかがおかしいのなら,つじつまが合わないところがあるはずなので,そのつじつまが合わない場所を見つければよいわけです. その場所を見つける方法として,まず何かを前提にして,そこから筋道を立てることが効果的です. 何らかの前提から出発して,矛盾点が生じたならば,その出発点がアヤシイということになります. (論理展開がアヤシイ場合もありますが,そういう場合は問題を切り分けて,それぞれを検証しましょう. 複数の問題を一度に扱うことは困難です. 問題点は切り分けて,個別に検証していくことが基本となります.)

筋道を立てるときに,質問形式にすると質問する技術が身につくと思われます. つまり,1つの論理展開ごとに,それを疑問文に変えてみることです. 式変形で言えば,一つのイコールごとにどういう計算を,どういう根拠で行ったのかを尋ねてみるということです.

可能性を洗い出してみる

たとえば,「式変形をしても先行研究の論文に載っている式にならない!」という場合. 使える条件式を自分が見落としている可能性があります. 式変形のどこかで自分が間違いをしている可能性もあります. そして論文の式が間違っている可能性もないわけではありません. (論文の方が間違っている場合はごく稀で,最初からその可能性を疑うべきではありません.)

このように,どこが問題になりうるのかを列挙してみることで,疑問に効果的にアプローチすることができます. それぞれの可能性について質問をすることで,それらの可能性を消していくことができるでしょう.

分からないことを分かったとしてみる

「分からない」という気持ちを抱えただけでは何も前に進みません. ひとまず「これが分からないのではないか?」という仮説を立ててみることです. 数学の一つの基本的な技法として「分からないものを分かったものとして扱うこと(未知数の導入)」があります. それに倣って,「これを分かったとしよう」と考えてみることが効果的です. その仮定で,自分が抱いている不明点が解明されるのなら,間違いなくそれが分からないと感じさせている原因です. 仮説を立ててみることは,前述の「筋道を立ててみること」にも通じます.

理解できても納得できない場合

「言っていることは分かるが,その気持ちが分からない」という場合もあります. これは少しこれまでに書いてきた「分からない」とは質が異なります.

おおよそ知識としては理解できるが,その知識の背景が理解できていないときに起こりえます. その知識自体について掘り下げても,モヤモヤのタネはありません. 周辺知識との整合性を調べるべきでしょう.

質問を通して自分を知る

質問を通して,自分という人間がどのような思考のクセを持っているのかを理解してほしいと思います. 「分からない」というモヤモヤをどのようなところに感じがちなのか,そういうところにも目を向けられるようになると,疑問を抱いたときに,的確に質問に変えられるようになっていくと思います.

他人に向けた質問だけが質問ではない

自問自答という言葉があるように,質問は自分に向けて発せられてもよいのです. 答えを自分で探し出せない場合に,誰かに助けを求めればよいと思います.

教員に質問をするとき

教員に質問をするときは,自分の試行錯誤を筋道を立てて説明して,そのなかで質問をするとよいでしょう. 以下は,質問をするときの実践的なTipsです.

これから話すことが何なのかを先に伝える

「これは質問ですが」や「これは質問をするための説明ですが」などの前置きをすると,質問をされる相手は心積もりができます. 説明をされていると思っていたのに,いきなり質問されたりしたら,誰だってすぐ答えられません.

自分が考えた筋道を示す

教員に正解を求めるべきではありません. 研究において正解は自分で導き出すものだと思いましょう. 意見を求めるつもりで質問をしましょう. そのために,自分が考えた筋道と自分の疑問点・質問点を伝えましょう.

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