研究発表には型がある ¶
研究発表は,発表をするひとと発表を聞くひとが行う一種のコミュニケーションです. たとえば,日本語しか分からないひとと英語しか分からないひと同士では会話が成り立たないように,異なる言語や文化圏の相手とは意思疎通が困難です. 研究発表というコミュニケーションにおいても,言語や文化圏に相当するものが存在します. ここではそれを「型」と呼ぶことにします.
研究活動について教育を受けたひとは,意識的にしろ無意識的にしろ,そのような型にはまった発表がなされることを予想しています. これは日本語話者と英語話者との例で言えば,実りのある会話をしたいのに,いちいち言葉を翻訳して,少しも話が進まないという問題を思いだせば,理解できるでしょう. 研究の内容を聞きたいのに,それを理解することが困難な発表の仕方をされるとフラストレーションが溜まってしまいます. 裏を返せば,発表の内容に集中したい場合にこそ,型にはまった発表を行うことが効果的になります.
型を学ぶ ¶
ここで議論している「型」には,多くの意味が含まれています. 発表の構成であったり,発表スライドのデザインだったり,発表自体のやり方だったりします. 一つずつ見ていきましょう.
発表構成 ¶
研究発表における構成の基本の型は,大まかには以下の通りです.
- 導入(背景知識・先行研究の説明)
- モチベーション(問題点・課題の提示)
- 本論(自分の行った研究とそこから分かったこと)
- まとめ(発表の要約)
以上の構成のどれかが欠けている,あるいは不十分だと発表を聞いているひとが「よく分からない」と思う可能性が高くなります. 具体的には,導入部分が不足していると,モチベーションへ繋がりません. つまり,問題点を聴衆と共有できないことになり,自分の研究の重要性を理解してもらえません. モチベーション部分が不足していると,自分の研究の位置付けが聴衆には理解してもらえません. 本論が不足していると,言わずもがなです.
導入部分にモチベーション部分が含まれるという説明もありますが,ここでは敢えてモチベーション部分を独立させました. それくらい重要だと私は考えています. また,本論部分をもっと細かく分割して表現することもありますが,研究分野によって構成が変わりうるのでざっくりと本論部分とまとめました.
理想を言えば,モチベーションを受けて自分の研究があるのですから,それに応える形で本論がまとめられるべきでしょう. モチベーションに対応しないまとめでは,聞いているひとに理解してもらうことは難しくなります. 個人的な意見ですが,必ずしも研究を始めたときのモチベーションそのままを,発表のモチベーション部分で述べる必要はないと私は考えています. しかし,これはHARKing にも繋がるので,難しい問題です.
発表スライドのデザイン ¶
デザインについては,数多くのよいウェブサイトやPDFがあるので,ここではそれらを列挙するにとどめたいと思います.
他にもインターネットを検索すれば色々な有益情報が得られるはずです. 自分で「研究発表 デザイン」などで検索してみましょう.
発表自体のやり方 ¶
元気よく発表しましょう. 原稿を読むのを止めましょう. 聞いているひとを見ましょう. 以上,自戒を込めて.
研究発表の守破離 ¶
捉えるべきべきポイントはしっかり捉えつつ,型にとらわれずに自分らしさを出せるようになると上級者の仲間入りということになります. ただし,型を破るのは研究発表の上級者だけがやって初めて評価され(る可能性があり)ます. 型が身に付いていない若輩者がやっても,ただ「教育を受けていない」という印象を与えるだけです. 気をつけましょう. これも自戒を込めて.