線形応答理論は「外場に対する応答を計算する形式」として紹介されることが多い.しかし物理的には,線形応答は外場が系にする仕事(エネルギーの授受)を最も一般的な形で記述する枠組みでもある.
外場 $f(t)$ が演算子 $B$ を通じて系に結合するとき,相互作用を
$$\begin{align} H_{\mathrm{int}}(t)=-f(t) B \end{align}$$と書くと,外場が系にする仕事率(パワー)は
$$\begin{align} \dot W(t)=-\dot f(t) \langle B(t)\rangle \end{align}$$で与えられる.したがって外場がどれだけ仕事をするかは,$\langle B(t)\rangle$ の応答で決まる.
線形応答では
$$\begin{align} \delta\langle B(t)\rangle=\int dt' G^R_{BB}(t-t') f(t') \end{align}$$が成り立つので,遅延Green関数は外場が系にどのように仕事をするかを完全に決める量である.
例えば単色の外場 $f(t)=f_0 e^{-i\omega t}$ に対して時間平均した仕事率は
$$\begin{align} \overline{\dot W}=\frac{\omega}{2}|f_0|^2 \mathrm{Im} G^R_{BB}(\omega) \end{align}$$となり,平均仕事は遅延Green関数の虚部だけで決まる.スペクトル関数 $\rho(\omega)=-2 \mathrm{Im} G^R(\omega)$ は,どのエネルギーで外場が仕事をできるかを表す「窓」になっている.
さらに,平衡にある受動的な系では $\omega \rho(\omega)\ge 0$ のような正値性が要請され,外場がない限り系が勝手に仕事を生み出さない(第二法則と整合する)ことを保証する.またKramers–Kronig関係は,仕事(虚部)と反応(実部)を独立に選べないことを,因果性の帰結として表している.