最終更新日: 2026/01/30
作成日: 2026/01/29

コラム3:解析接続はなぜ「数値的に不安定」なのか

数値解析接続が逆問題として不安定になる理由を,虚軸データの情報圧縮と正則化への依存として説明する.

解析接続は理論的には正当化されているにもかかわらず,数値計算の文脈では「不安定」「信頼できない」と言われることが多い.この理由は,解析接続の物理が曖昧だからではない.数値的解析接続が本質的に逆問題(ill-posed problem)になるからである.

Matsubara Green関数で得られる情報は,虚軸上の離散的な周波数点での有限精度データに限られる.一方で実際に知りたいのは,実軸上の連続関数としてのスペクトル関数である.これは「有限個の曖昧な情報から無限自由度の関数を復元する」問題であり,微小な誤差が実軸で大きく増幅され得る.

直感的には,虚軸上のGreen関数はスペクトル関数を強く平滑化した量である.鋭いピーク構造,長寿命励起,低エネルギーの特異性といった情報は,虚軸データでは見えにくくなる.それを実軸で復元しようとすると,どうしても正則化(事前情報)を導入した推定問題になり,結果は追加仮定に依存する.

したがって「数値的に不安定」という事実は,解析接続そのものが怪しいことを意味しない.むしろ,平衡(KMS条件)のもとでGreen関数が情報を強く圧縮した表現になっていること,そしてその圧縮を逆向きに解くことが情報理論的に困難であることを示している.


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