第6章まででKeldysh形式の一般的な構造を確立した.本章では,平衡という特殊な条件のもとでその構造がどう制約され,最終的にMatsubara形式へ縮約されるかを見る.
鍵となるのはKMS条件である.KMS条件は「時間発展と熱分布が同じ生成子で結び付く」という平衡の核心を相関関数の言語で表したものであり,これがKeldysh形式の統計的自由度を固定してFDTを導き,さらに虚時間方向への射影としてMatsubara形式を回収する.
本章の構成 ¶
熱平衡の定義からKMS条件を実時間相関として導き,その核心が「時間発展」と「熱分布」が同じ生成子で結び付くことにあり,平衡の判定条件として機能することを整理する.
キーポイント:
- KMS条件は平衡の定義そのものが相関関数に課す制約である
- 核心はトレースの巡回性と $e^{-\beta H}A(t)=A(t+i\beta)e^{-\beta H}$
- KMS条件は平衡かどうかの判定条件として機能する
KMS条件を生成汎関数の対称性として言い換え,閉時間経路上の動的KMS対称性がFDTを含む一連の関係式を与え,その破れが非平衡性の診断になることを述べる.
キーポイント:
- 平衡条件は生成汎関数の離散対称性(動的KMS対称性)として表現される
- cl/q基底で揺らぎと応答の混合として可視化される
- FDTは動的KMS対称性の二点関数版である
動的KMS対称性を二点関数のレベルへ落としてFDTを導く.FDTがKMS条件を周波数表示に書き直したものであり,平衡性の最も直接的な実時間指標であることを確認する.
キーポイント:
- $G^K(\omega)=\coth(\beta\omega/2)(G^R(\omega)-G^A(\omega))$
- 揺動と散逸は同一のスペクトル関数で制御される
- FDTの破れは非平衡性の診断になる
平衡(KMS条件+FDT)のもとでKeldysh形式の自由度が縮約され,虚時間方向への射影としてMatsubara形式が回収されることを示す.非平衡ではこの射影が不可能になる理由も整理する.
キーポイント:
- Matsubara形式は実時間Keldysh理論を平衡点に制限し虚時間方向に射影した表現
- 非平衡ではKMS条件が破れ虚時間の周期性が失われるためMatsubara形式は成立しない
- Keldysh形式が一般形,Matsubara形式がその特殊点という包含関係
章のまとめ ¶
本章で押さえるべき結論は次の通りである.
- KMS条件は平衡の定義が相関関数に課す制約であり,平衡の判定条件として機能する.
- 動的KMS対称性は生成汎関数の対称性として平衡条件を表し,FDTを含む一連の関係式を導く.
- FDTはKMS条件の周波数表示であり,統計成分を応答と温度で固定する.
- Matsubara形式はKeldysh形式を平衡点に制限し虚時間へ射影した縮約表現である.