最終更新日: 2026/01/30
作成日: 2026/01/29

6.5 Keldysh形式は何を仮定していないか

Keldysh形式が平衡(KMS条件)や時間並進対称性,準粒子描像,弱結合などを定義で仮定せず,初期状態とユニタリな時間発展だけで一般形を与えることを整理する.

ここまで,Schwinger–Keldysh形式が閉時間経路,成分分解,ユニタリ性と正規化条件から自然に導かれることを見てきた.最後に重要なのは,この形式が「何を前提にしていないか」を明確にすることである.それにより,どこまでが形式の必然で,どこから近似や追加仮定が入るのかがはっきりする.

仮定していないこと

Schwinger–Keldysh形式は,次のような仮定を定義の段階では一切置かない.

平衡(KMS条件)

温度 $T$ や逆温度 $\beta$ は定義に現れない.平衡で重要だったKMS条件やFDTは,特定の状態(平衡密度行列)を選んだときに初めて現れる結果である.

時間並進対称性

非平衡では一般に二点関数は $G(t,t')$ と二つの独立な時間変数を持つ.$G(t,t')=G(t-t')$ を仮定しないことが,駆動系や緩和過程,過渡現象を扱う上で本質的である.

準粒子描像

鋭いスペクトルピークや長寿命励起を前提にしない.Green関数が与えるのはスペクトル(何が起こり得るか)と分布(どのような統計で起きているか)であり,それを粒子的に解釈できるかどうかは後段の問題である.

弱結合・摂動論

形式そのものは弱結合や摂動展開を必要としない.それらはDyson方程式や自己エネルギーをどのように近似するかという段階で初めて導入される.

では何を仮定しているのか

仮定されているのは実は非常に少ない.

  • 初期状態 $\rho_0$ が与えられていること.
  • 時間発展がユニタリであること.
  • 期待値をトレースとして計算すること.

これだけで理論が組めるのは,閉時間経路と正規化条件が因果性・整合性を構造として担保しているためである.

まとめ

  • Keldysh形式は平衡や時間並進対称性を仮定しない.
  • 準粒子描像や弱結合は定義には含まれず,必要なら後から近似として導入する.
  • 仮定を最小限にした一般形として書けることが,非平衡理論の出発点になる.

この章で整えた枠組みは,「平衡はKeldyshの特殊点」という見通しを定式化したものである.以後はこの言語を用いて,具体的な計算や近似の入れ方を扱う.


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