前節では,期待値の定義が前進・後退の二つの時間発展を含むことから,閉時間経路(Keldysh経路)が必然的に現れることを見た.この経路上で二点相関を定義すると,実時間Green関数は自然に4成分に分解される.本節では,経路順序Green関数の定義と4成分の意味を整理する.
経路順序Green関数 ¶
Schwinger–Keldysh形式で基本となる二点関数は,経路順序演算子 $T_{\mathcal C}$ を用いて
$$\begin{align} G(t,t')=-i\langle T_{\mathcal C} B(t)B(t')\rangle \end{align}$$と定義される.ここで $t,t'$ は「実時間」だけでなく「どの枝に属するか」という情報も含む.すなわち経路には
- 前進枝($+$ 枝),
- 後退枝($-$ 枝),
の二つがあり,同じ実時間 $t$ でも $(t,+)$ と $(t,-)$ は区別される.
4つの成分 ¶
枝の添字 $a,b\in\{+,-\}$ を明示すると,二点関数は
$$\begin{align} G^{ab}(t,t')=-i\langle T_{\mathcal C} B^a(t)B^b(t')\rangle \end{align}$$となり,$G^{++},G^{+-},G^{-+},G^{--}$ の4成分が現れる.これらは「新しい物理量」を導入しているのではなく,閉時間経路に沿った演算子配置の違いを忠実に記録しているだけである.
各成分の対応 ¶
4成分は通常の実時間相関関数の組み合わせとして解釈できる.典型的には
- $G^{++}$:時間順序Green関数,
- $G^{--}$:反時間順序Green関数,
- $G^{+-}$:lesser 成分 $G^<$,
- $G^{-+}$:greater 成分 $G^>$,
に対応する.ただし名称(lesser/greater)自体に独立の物理的意味があるわけではなく,重要なのは経路上での配置を区別するための記号であるという点である.
成分間の恒等式 ¶
経路が閉じていること(後に見る正規化条件)により,4成分の間には常に
$$\begin{align} G^{++}+G^{--}=G^{+-}+G^{-+} \end{align}$$という恒等式が成り立つ.その結果,独立成分は4つではなく3つである.この「3つ」という数が,次節で導入する $R/A/K$ 分解と対応する.
まとめ ¶
- 経路順序Green関数は閉時間経路上で定義され,枝の情報を含む.
- その結果,$+,-$ 基底では4成分が自然に現れるが,経路の閉性により独立成分は3つである.
- 4成分は演算子配置の違いを記録する再配置であり,新しい仮定ではない.
次節では,この4成分を物理的役割が見える基底へ線形変換し,遅延/先進/Keldysh成分に分解する.そこで因果性が行列構造として現れることを確認する.