第5章では,平衡ではKMS条件によって揺らぎと応答が結び付く一方,非平衡では揺らぎが独立自由度として残ることを見た.この自由度を最初から保持したまま理論を組み立てる枠組みがSchwinger–Keldysh形式である.
この章の狙いは,Keldysh形式を「非平衡用の道具」としてではなく,期待値の定義に忠実であるがゆえに必然的に現れる形式として理解することにある.閉時間経路と成分分解を通して,因果性と整合性が構造として埋め込まれていることを押さえる.
本章の構成 ¶
期待値 $\mathrm{Tr}(\rho_0 U^\dagger O U)$ が時間発展の二重化を本質的に含むことから,前進枝と後退枝からなる閉時間経路(Keldysh経路)が自然に現れることを確認する.
キーポイント:
- 二重化は非平衡の仮定ではなく期待値の定義に由来する
- 前進枝/後退枝が閉時間経路を形成する
- 定義の段階では平衡や時間並進対称性を仮定しない
閉時間経路上での経路順序Green関数を定義し,$+,-$ 基底で4成分が現れる理由とその対応(time-ordered/anti-time-ordered/lesser/greater)を整理する.経路の閉性に由来する恒等式により独立成分が3つに減る点が重要である.
キーポイント:
- 枝の添字により $G^{ab}$ の4成分が現れる
- $G^{+-},G^{-+}$ は lesser/greater に対応する
- 恒等式により独立成分は4つではなく3つである
4成分を遅延/先進/Keldysh成分へ再配置し,応答(力学)と揺らぎ(統計)が分離されることを示す.さらに行列表現では因果性が下三角構造として実装されることを確認する.
キーポイント:
- $G^{R/A}$ が応答と解析構造を,$G^K$ が揺らぎを担う
- 因果性は $G^R(t
- 基底変換により「何が自由度か」が可視化される
時間発展のユニタリ性が,生成汎関数の正規化条件 $Z[J,J]=1$ として現れることを示す.この条件が成分の恒等式や因果構造を支え,「何も仮定していないのに危うくならない」理由になる.
キーポイント:
- ユニタリ性は $Z[J,J]=1$ を要求する
- cl/q(差)基底で「差だけが効く」構造が見える
- 正規化条件が成分恒等式と因果性を支える
最後に,Keldysh形式が定義の段階で何を仮定していないか(平衡,時間並進対称性,準粒子描像,弱結合など)を明確にし,どこから近似や追加仮定が入るのかの境界線を引く.
キーポイント:
- 平衡(KMS/FDT)は結果であり定義には入らない
- 時間並進対称性や準粒子描像も仮定しない
- 仮定は「初期状態」と「ユニタリ性」にほぼ尽きる
章のまとめ ¶
この章で得た見通しは次の通りである.
- 閉時間経路は期待値の定義から必然的に現れ,非平衡のための付け足しではない.
- 経路順序Green関数は4成分を生むが,経路の閉性により独立成分は3つに減る.
- $R/A/K$ 表現では,応答と揺らぎが分離され,因果性は下三角構造として実装される.
- ユニタリ性は $Z[J,J]=1$ として現れ,形式の整合性(恒等式・因果構造)を支える.