最終更新日: 2026/01/30
作成日: 2026/01/29

5.3 KMS条件からの導出(最小限)

KMS条件がlesser/greater Green関数を指数因子で結び付けることから出発し,スペクトル関数から揺らぎ(対称相関)が再構成されてFDTが導かれることを示す.

前節ではFDTの代表的な形を示し,それが平衡で統計成分が固定されることを意味する,という物理的解釈を与えた.本節では,FDTが独立の仮定ではなくKMS条件の直接の帰結であることを,lesser/greater Green関数を用いて最小限の手順で確認する.

準備:lesser/greater Green関数とスペクトル関数

実時間の二点相関として

$$\begin{align} G^>(t)=-i\langle B(t)B(0)\rangle,\qquad G^<(t)=-i\langle B(0)B(t)\rangle \end{align}$$

を導入する(ここではボース的な規約に揃える).周波数表示では,スペクトル関数を

$$\begin{align} \rho(\omega)\equiv i\bigl(G^>(\omega)-G^<(\omega)\bigr) = -2 \mathrm{Im} G^R(\omega) \end{align}$$

で定義する.

KMS条件:平衡が課す唯一の関係

平衡($\rho_{\mathrm{eq}}\propto e^{-\beta H}$)ではKMS条件

$$\begin{align} \langle B(t)B(0)\rangle=\langle B(0)B(t+i\beta)\rangle \end{align}$$

が成り立つ.これを $G^>,G^<$ で書き直すと

$$\begin{align} G^>(t)=G^<(t+i\beta) \end{align}$$

となる.大小相関が虚時間シフトで結び付けられることが,平衡の本質的な制約である.

周波数空間:指数因子

上式を周波数に移すと(解析性を用いる),

$$\begin{align} G^>(\omega)=e^{\beta\omega}G^<(\omega) \end{align}$$

が得られる.温度はこの指数因子として現れ,平衡の情報がここで初めて周波数表示に入る.

KMSからFDTへ

KMSから得た関係を用いて和と差を取る.差はスペクトル関数であり,

$$\begin{align} \rho(\omega) = i\bigl(G^>(\omega)-G^<(\omega)\bigr) = i\bigl(e^{\beta\omega}-1\bigr)G^<(\omega) \end{align}$$

より

$$\begin{align} G^<(\omega)=\frac{-i}{e^{\beta\omega}-1} \rho(\omega),\qquad G^>(\omega)=\frac{-i e^{\beta\omega}}{e^{\beta\omega}-1} \rho(\omega) \end{align}$$

が従う.

ここから対称相関(揺らぎ)を

$$\begin{align} C(\omega)\equiv \frac{1}{2}\langle\{B(\omega),B(-\omega)\}\rangle \end{align}$$

とみなすと(規約に依存するが結論の形は同じ),

$$\begin{align} C(\omega)=\frac{i}{2}\bigl(G^>(\omega)+G^<(\omega)\bigr) \end{align}$$

で与えられる.上の式を代入すれば

$$\begin{align} G^>(\omega)+G^<(\omega) = -i \frac{e^{\beta\omega}+1}{e^{\beta\omega}-1} \rho(\omega) = -i \coth\left(\frac{\beta\omega}{2}\right)\rho(\omega) \end{align}$$

となり,

$$\begin{align} C(\omega)=\frac{1}{2}\coth\left(\frac{\beta\omega}{2}\right)\rho(\omega) \end{align}$$

を得る.これがFDTの代表的な形である.

Keldysh形式での表現

Keldysh成分を

$$\begin{align} G^K(\omega)\equiv G^>(\omega)+G^<(\omega) \end{align}$$

と定義すると,上の結果は

$$\begin{align} G^K(\omega)=\coth\left(\frac{\beta\omega}{2}\right)\bigl(G^R(\omega)-G^A(\omega)\bigr) \end{align}$$

と一行で書ける($\rho=i(G^R-G^A)$ を用いた).平衡では,統計成分 $G^K$ が応答成分と温度だけで固定されることが明示されている.

まとめ

  • KMS条件は $G^>(\omega)=e^{\beta\omega}G^<(\omega)$ を与え,大小相関を温度で結び付ける.
  • その結果,スペクトル $\rho(\omega)$ から揺らぎ(対称相関)が一意に決まる.
  • FDTはKMS条件の直接の帰結であり,新しい仮定ではない.

次節では,この関係を「外場が系にする仕事」と「雑音(自発揺らぎ)」の観点から読み替え,温度が何を測っているのかをより直感的に理解する.


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