最終更新日: 2026/01/31
作成日: 2026/01/29

5.1 揺らぎと応答は独立だった

応答(遅延Green関数)と揺らぎ(相関・統計成分)が一般には独立であり,平衡ではKMS条件がその独立性を潰してFDTが成立するという見通しを与える.

揺動散逸定理(fluctuation-dissipation theorem; FDT)は,平衡状態において揺らぎ(相関)と応答(散逸)が温度によって結び付くことを主張する.初めて見ると,揺らぎが応答から決まってしまうという主張は過剰に強く見え,ほとんど「魔法」のように感じられるかもしれない.

しかしFDTを正しく理解するためには,まず逆の事実をはっきりさせておく必要がある.一般には揺らぎと応答は独立である.平衡とは,この独立性がKMS条件によって失われる特殊な状況にすぎない.本節では,応答と揺らぎがそれぞれ何を表し,なぜ通常は結び付かないのかを整理する.

応答:外場に対する因果的な変化

応答とは,外場を加えたときに系がどのように変化するかを表す量である.線形応答では,応答は遅延Green関数によって記述される:

$$\begin{align} \delta\langle B(t)\rangle = \int dt' G^R_{BB}(t-t') f(t') . \end{align}$$

応答は因果性と安定性に強く制約され,周波数空間では解析性やKramers–Kronig関係として現れる.重要なのは,この段階では「状態がどのような揺らぎを持つか」という統計的情報はまだ入っていないことである.

揺らぎ:外場なしに存在する自発的変動

揺らぎは,外場がなくても存在する自発的な変動であり,相関関数

$$\begin{align} C(t-t')=\langle B(t)B(t')\rangle \end{align}$$

のような量で記述される.揺らぎは状態・分布・初期条件に強く依存し,因果性を持たない($t > t'$ と $t < t'$ を区別しない).この点で,応答とは性格が根本的に異なる.

なぜ両者は独立なのか

ここまでで,応答と揺らぎの違いは次のように要約できる.

  • 応答:外場に対する因果的な変化(力学的制約が中心).
  • 揺らぎ:外場なしの相関(状態・統計が中心).

この段階では,両者を結び付ける必然性はどこにもない.実際,非平衡では同じ応答を持ちながら揺らぎが大きく異なる状況は珍しくない.

Keldyshの言語では独立性が最初から見える

Keldysh形式では,この独立性は成分分解として明示される.一般に

  • $G^R,G^A$:応答・因果性・力学(スペクトル).
  • $G^K$:揺らぎ・統計・状態(分布).

であり,$G^K$ は $G^R$ からは決まらない.平衡が特殊であるのは,KMS条件が $G^K$ を温度とスペクトルから固定してしまう点にある.

まとめ

  • 応答は遅延Green関数で記述され,因果性と安定性に制約される.
  • 揺らぎは相関関数で記述され,状態・分布・初期条件に依存する.
  • 一般には両者は独立であり,非平衡ではその独立性が顕在化する.
  • 平衡ではKMS条件により独立性が失われ,FDTが成立する.

次節では,FDTの代表的な形を周波数空間で書き,それが何を主張しているのかを物理的に解釈する.


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