多体理論には多くの計算技法があるが,本文章ではGreen関数を単なる計算手法ではなく,観測可能な応答と相関を因果性と整合させて記述するための「言語」として位置づける.第1章ではその入口として,(i) 応答と遅延Green関数,(ii) 因果性と時間順序の切り分け,(iii) 相関関数と状態の違い,(iv) Matsubara形式とKeldysh形式の包含関係,を順に確認する.
本章の構成 ¶
線形応答と因果性から遅延Green関数が自然に現れることを確認する.Kubo公式では交換子が必然的に現れること,そして相関(揺らぎ)と応答(因果的変化)が同一ではないことを押さえる.
キーポイント:
- 線形応答と因果性 → 遅延Green関数
- Kubo公式と交換子(古典極限:ポアソン括弧)
- 相関関数と応答関数の区別(平衡でのみFDTが結ぶ)
時間順序は摂動展開のための「計算の器」であり,それ自体は因果性を保証しないことを整理する.因果性がどこに現れるか($\theta$ 関数と解析性)を明確にし,非平衡で順序(成分)が増える理由を見通す.
キーポイント:
- 時間順序Green関数の定義と役割
- 因果性は遅延型と周波数空間の解析性として現れる
- 非平衡では一つの順序では足りず,Keldysh経路が必要になる
二点相関関数(とくに二点Green関数)を知ることと,状態(密度行列)を知ることが同じではない理由を整理する.相関関数が与える情報の範囲,ガウス状態での例外,そして平衡/非平衡で「状態に関する仮定」がどこに埋め込まれるかを確認する.
キーポイント:
- 状態は期待値を与えるもの(密度行列)であり,相関はその一部の情報にすぎない
- 有限個の相関関数から状態は一般に一意に定まらない(粗視化・観測スケール)
- 非平衡では分布が自由に残り,$G^K$ など統計成分に現れる
Green関数の定義には,時間順序(経路順序),因果性の実装,状態(初期条件)といった物理的選択が埋め込まれていることを明確にする.Matsubara形式が平衡(KMS条件)を最初から仮定するのに対し,Keldysh形式は平衡をまだ仮定しない一般形である,という包含関係を整理する.
キーポイント:
- 「形式を選ぶ」ことは「仮定を選ぶ」ことに等しい
- Matsubara形式が暗黙に仮定しているもの(平衡・KMS・分布の固定)
- Keldysh形式は平衡を仮定せず,平衡はその上に追加される制約として現れる
章のまとめ ¶
この章で確立する見通しは次の通りである.
- 応答と因果性を要請すると,遅延Green関数がほとんど一意に定まる.
- 時間順序は計算の構造であり,物理的因果性は遅延性と解析性として現れる.
- 相関関数は状態そのものではなく,有限個の相関から状態が一意に決まるとは限らない.
- Matsubara形式は平衡を定義に埋め込んだ特殊な言語であり,Keldysh形式は平衡をまだ仮定しない一般形として位置づけられる.